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感想「TOKYO YEAR ZERO」(デイヴィット・ピース)もう一つの小平事件について

Twitter(の一部)で大人気の『TOKYO YEAR ZERO』遅ればせながら読了。
なぜか勝手に軍事怪奇小説だと思っていたのだけれど、刑事ものだったので少し期待が外れた。

内容は小平事件という有名な連続殺人事件がベースで、特に驚きのない展開です。(実在の事件なので当たり前ですが)
たぶん内容云々よりも、読んでいて不快感を催すような文体…執拗に反復される擬音や短文が、戦後間もない東京の混沌さや主人公の内なる狂気をうまく描写していると評判になったのでしょう。
叙述トリックとしては特筆すべき点はないが、日本独特のジメジメした陰惨な雰囲気を英国人がここまで書ききったのは並大抵の才能ではないと思います。
あと、ところどころ槌の音が反復されていてまさかと思ったら、やっぱり参考文献に太宰治トカトントン』が入っていた。

そんなことより私は小平事件のほうを書きたい。

マニアというほどでもないが殺人事件のことはすこし齧っていて、

『明治・大正・昭和事件犯罪大辞典』というトンでもなく分厚い本を所持しているので、当該事件について調べてみた。が、正直wikiを読んだほうが詳しくなれるだろうという程度にしか書かれていない。

しかし、「コ」ではじまる事件を調べていると、小平義雄事件の5年後に、同じく小平という名の男が事件を起こしたらしいことがわかった。この大辞典には、そちらのほうが「小平事件」と記載されており、より有名な筈の小平義雄の事件は「小平義雄8女性連続殺人事件」となっている。以下引用。

 

1951年1月13日夜、長野県諏訪郡茅野町豊平村で5坪の物置小屋が不審火から全焼した。このささいな火事を放火ときめつけ、精神薄弱者の小平尚重(24)を架空容疑で別件逮捕、自白とマッチした物証をデッチあげ、でたらめな検証調書を作った。51年9月、長野地裁諏訪支部は懲役2年の判決、東京高裁最高裁とも動揺で57年6月確定。58年2月再審請求、60年5月再審開始決定。63年4月2日、無罪。ひとりの温順で愛嬌者の障害者を、両親と妹弟として八ヶ岳山麓の農民たちが、司法権力の”魔手”から守り抜いた希有な例であることから、冤罪史上にその名をとどめることになった。観音堂境内で映画界があった最中の火事で、鑑賞していた尚重に不動のアリバイがあった経緯から、土地の人びとは観音堂事件と呼んでいる。

 未だ恐怖の冤罪事件として語り継がれている「新宿署痴漢冤罪自殺事件」や再審開始された「袴田事件」など冤罪事件は後を絶たないが、この小平事件もまた何ともおぞましい故意の冤罪事件である。この事件はたまたま地元の人びとの尽力で日の目をみる結果となったが、戦後間もない当時は、このように障害者やいわゆる白痴と呼ばれる人々が無実の罪を被って適当に処罰されていたであろうことは想像に難くない。

当時は、といいたいけれども、未だにひどい冤罪事件が多いですね。

 

そういえば、TOKYO YEAR ZEROの続編「占領都市」の題材である帝銀事件も冤罪事件として有名ですね。偶然。そっちもはやく読みたいです。終わり。